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次世代研究インキュベータ

ファイトケミカル植物分子科学

植物が作る多様な化学成分の可能性を引き出す

――植物由来の化学成分が人の健康に与える作用について最新の遺伝子・ゲノム技術を駆使して検証する

研究キーワード:植物分子科学、ファイトケミカル、遺伝子

iStock.com/mashuk

古来より人間は、植物に含まれる天然化合物を、医薬品や栄養素として使用してきた。現代では、植物が進化の過程で作ってきた多様な化学成分をファイトケミカルと呼び、研究が進められている。本研究グループでは、先進的な遺伝子・ゲノム技術を活用し、植物中でのファイトケミカル生産のしくみや、ファイトケミカルをコントロールすることによって特定グループの植物を最適化する方法、さらには生活習慣病や老化に伴う病気の治療へ適用方法について検証を行っている。

自然界の植物は、花粉を運ぶ動物を誘引したり、植物自身を防御したりするなど様々な目的のために化学物質を生産している。このように特定の目的のために代謝産物を作ることによって、植物は、食物連鎖の中で特定の生態的地位を獲得したり、新たな環境に適応したり、潜在的なストレス因子をかわして生き残れるように進化したりしている。ここで重要なのは、ファイトケミカルには、人間の疾病の治療に役立つ特性が存在することである。現在用いられている治療薬の例として、モルヒネ、抗マラリア薬のアルテミシニン、タキサン系の抗がん剤などがあげられる。

ファイトケミカルを活用して疾病と戦う

本研究プロジェクトを率いる薬学研究院教授の齊藤和季は、ファイトケミカルが豊かな多様性を有することから、疾病の治療に利用できる可能性が非常に高いと指摘する。「ファイトケミカルは、長年にわたって医薬品として、また伝統療法として用いられてきました。しかし、その作用のしくみを理解し、可能性を最大限に引き出すことができるようになったのは、次世代DNAシークエンシングが登場した、ごく最近のことです」。このプログラムは、3つの共同研究グループで構成され、各研究テーマに取り組んでいる。第一のグループは、薬用植物や食用作物のゲノミクスに着目し、ファイトケミカル生産のゲノム原理を明らかにすることを主要な目的としている。最先端技術を用いて、未知の遺伝子の役割を特定・解明し、植物の代謝研究を行っている。

2016年、齊藤らの研究チームは、天然甘味料や薬用成分として世界中で使用されている甘草(Glycyrrhizauralensis)のドラフトゲノム配列の取りまとめを行なった。これにより、人間の健康にプラスの役割を果たすことが知られている甘草のいくつかの成分が同定され、その鍵となる遺伝子が突き止められた。それらの遺伝子を操作することにより、作物の改良へとつなげられる可能性が期待されている。第二のグループは、様々な植物の中から新たな ファイトケミカルや活性産物を特定し、がんや認知症、糖尿病などの病気の治療に役立つ薬用成分を探っている。有望な分子の単離・分析を行うとともに、動物実験によって、その分子の医薬品としての可能性の評価が進められている。中でも、維管束植物であるヒカゲノカズラ科に含まれる分子、リコポジウム属植物含有アルカロイド(LA)について幅広い研究が進められており、このLAは、特にアルツハイマー病や統合失調症の治療に役立つ可能性が期待されている。第三のグループは、人工的に創り出した様々な環境で植物を栽培し、変化に対する植物の応答をモニタリングすることにより、植物が異なる環境ストレスにどのように応答するかを研究している。

「私たちは、医薬品や機能性食品への利用を目的として、高品質のファイトケミカルを植物が生産できるよう植物を最適化することを目指しています。本研究プロジェクトで得られた知見により、希少植物の栽培が進み、今後は、そうした情報を商品作物向けの農業手法の改善にも役立てられると考えています」(齊藤)。本研究グループでは、ファイトケミカルに着目するとともに、学際的研究も幅広く行っている。化学・園芸学・遺伝学・薬学などの経験をもち、急速に発展するこの研究分野に関心を寄せる研究者や学生を歓迎している。

Members

推進責任者
研究者名 役職名 専門分野
齊藤 和季 教授(薬学研究院)
全体統括と推進責任
植物ゲノム機能学
システム生物学
中核推進者(学内研究グループ構成員)
研究者名 役職名 専門分野
山崎 真巳 准教授(薬学研究院)二次代謝
第1班の総括
植物分子生物学
吉本 尚子 講師(薬学研究院) 植物分子生物学
ライ・アミット 特任助教(薬学研究院) バイオインフォマティクス
システム生物学
高橋 弘喜 准教授(真菌医学研究センター) バイオインフォマティクス
梅野 太輔 教授(工学研究科) 代謝工学
土松 隆志 准教授(理学研究院) 植物ゲノム科学
佐藤 玄 特任助教(薬学研究院) 生合成反応の計算化学
髙山 廣光 教授(薬学研究院) 天然物化学
医薬化学
石橋 正己 教授(薬学研究院) 天然物化学
生物活性天然物
北島 満里子 准教授(薬学研究院) 天然物化学
荒井 緑 准教授(薬学研究院) 天然物化学
生物有機化学
小暮 紀行 助教(薬学研究院) 有機化学
天然物化学
井川 智子 准教授(園芸学研究科) 植物(生殖)分子生物学
ゲノム編集
華岡 光正 教授(園芸学研究科) 植物生理学
分子生物学
後藤 英司 教授(園芸学研究科) 植物生体情報計測
生物環境システム工学
加川 夏子 講師(環境健康フィールド科学センター) 植物化学
分析化学
島田 貴士 助教(園芸学研究科) 植物オルガネラ生理学
佐々 英徳 教授(園芸学研究科) 植物ゲノム科学
原 康雅 助教(薬学研究院) 植天然物化学
生物活性天然物
菊池 真司 准教授(園芸学研究院) 細胞遺伝学

研究内容

受賞歴

齊藤 和季
(2018)「Highly Cited Research 2018」
齊藤 和季
(2018)平成30年秋の紫綬褒章
齊藤 和季
(2018)「国際メタボロミクス学会 2018年 終身名誉フェロー」
山崎真巳
Amit Rai
齊藤和季
(2018)「平成30年度日本生薬学会論文賞」
高山 廣光 (2017)「平成30年度 日本薬学会賞」
齊藤 和季 (2017)「Highly Cited Researchers 2017」
小暮 紀之 (2017)「2017 日本生薬学会 学術奨励賞」
Amit Rai (2017)「第4回国際植物代謝会議, 優秀ポスター賞
齊藤 和季 (2017)「平成29年度 日本薬学会賞」
受賞業績名「植物メタボロミクスの開拓と薬用資源植物ゲノミクスへの展開」
齊藤 和季 (2016)「Highly Cited Researchers 2016」
加川 夏子 (2016)「2nd Prize: Best Poster Award, The 1st Food Chemistry Conference」
吉本 尚子 (2016)「2016 日本生薬学会 学術奨励賞」
齊藤 和季 (2016)「2016年度日本植物生理学会・学会賞」
受賞業績名「植物メタボロミクスの開発とゲノム機能科学研究への応用」

プレスリリース

2019年8月1日 植物の代謝進化の再現に成功 ——創薬シーズ開発に期待——
A scientific approach to recreate metabolic evolution in plants
2019年7月25日 マメ科植物と共生する根粒菌の多様性を解明
——持続可能な農業への応用に期待——
2019年3月29日 情報科学で生体内の多様なメタボロームを包括的に解明 —質量分析インフォマティクスと安定同位体標識植物の統合解析—
2018年12月21日 薬用植物トウサイカチのトリテルペノイドサポニン合成経路に関わる遺伝子を推定しました〜より高収率で高品質のサポニンを含む薬用植物の開発に期待〜
2018年12月6日 被子植物重複受精をコントロールする新因子の発見〜120年来の謎 解明の手がかり〜
2017年5月18日 植物工場で立証 光強度と養液濃度の精密制御により シソで抗アルツハイマー病成分の増量に成功
2016年11月9日 ナノサイズの共進化:反復DNA配列と転写酵素 —熱揺らぎを利用する酵素機構の解明に貢献—
2016年10月21日 生薬「甘草」のゲノム解読に成功 —重要生薬の原料の安定供給と有用遺伝子の探索に貢献—
2016年8月23日 紫外線から植物を守る 有害な紫外線から植物を守る物質と生合成遺伝子を発見
2016年6月24日 薬用植物の進化の謎をひもとく 植物アルカロイドの生産性はアミノ酸代謝酵素の 収斂分子進化に起因することを明らかに
2016年3月23日 植物が薬理作用をもつ天然物を合成する過程を解明