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支援実績のあるプロジェクト

再生システムと疾患の統合的研究拠点

幹細胞で患者の生活を改善する

――幹細胞の統合的な研究が新たな細胞療法、医薬品、 疾患に関する知見を生み出す。
研究キーワード:造血幹細胞、iPS細胞、血小板

©️Akiko Sato

幹細胞には、自己複製能力だけでなく、特殊化した多種の細胞に体内で分化できるという、驚くべき能力を備えている。ここに、再生医療の 治療に応用できる大きな可能性が潜んでいる。しかし、幹細胞が科学探究の対象として注目を集めているのは、そうした理由だけではない。姿を変えるこの細胞は、がんや老化、その他の様々な健康問題の背後にある疾患のメカニズムを調べる上で非常に有益な研究ツールでもある。

「本研究プロジェクト「再生システムと疾患の 統合的研究拠点」では、千葉大学の研究者が主体となり、これら両方の幹細胞研究を推進する。 幹細胞を利用した新たな治療法の開発に取り組むとともに、病気のメカニズムに関する重要な知見を得るための研究にも従事している。研究者に共通する目標は、幹細胞をツールとして利用することにより、患者の生活を改善するという点である。

2016年に開設された同研究拠点は、3つの研究班に分かれる。研究班1は血液中および脳内に存在する幹細胞を用いて、疾患と正常な発達や成長に関する理解を深めている。研究班2は、患者から採取した組織生検を再プログラム化するとによって、医薬品のスクリーニングに使うための疾患特異的な幹細胞の作成に力を入れている。研究班3は、糖尿病や心疾患などの疾患の治療に用いる幹細胞療法の開発を進めている。

推進責任者である現東京大学教授の岩間厚志は、基本研究から臨床研究までの幅広い研究に取り組んでいると話す。様々な研究者がそれぞれ異なる方法を採りつつも、全員が協力しながら研究に携わっている。また、定期的にグループミーティングや研究会を開き、新しいデータについて議論したり、新たな協力関係を築いたりしている。

世界中との共同パートナーシップ

同拠点では、さらに広範な連携を見据え、分野横断的な研究ネットワークの構築を世界的に進める。既に日本、シンガポール、米国のトップクラスの幹細胞研究グループとのパートナーシップを結んでいるが、今後も国際的な提携関係をさらに広げていくことを望んでいる。

そうしたパートナーシップ先の1つとして、京都大学iPS細胞研究所があげられる。同研究所では、江藤浩之が、長年にわたり、再プログラムされた幹細胞から血小板を作るためのプロトコールの開発に取り組んできた。昨年、千葉大学は、江藤に千葉大学の新研究拠点への参加を依頼した。江藤は、京都大学の研究室を持ち、京都では幹細胞由来の血小板について、初めての臨床試験を実施する計画を進める。一方、千葉大学医学部附属病院では、試験対象をさらに拡大し、輸血を必要とする患者を含めたいと考えている。

再生システムと疾患の統合的研究拠点には、早老症の1つであるウェルナー症候群の第一人 者である横手幸太郎や、希少な形質細胞疾患の POEMS症候群研究における世界的リーダーである中世古知昭など、他にも著名な研究者が参画する。横手は、ウェルナー症候群患者から採取した幹細胞を用いて、疾患に対する理解を深めるとともに、新たな治療薬の開発に取り組んでいる。また、中世古は、骨髄由来幹細胞を活用した新たな種類の移植治療の開発を進めている。他にも世界的に著名な研究者が多数参画しており、この新研究拠点は、研究に取り組んだり、次世代の科学者トレーニングを行う上で理想的な場となっている。「幹細胞研究や臨床応用に関心を持つ若者を多く募りたいと思っています」(岩間)。

Members

※所属・職位は支援当時のものです

推進責任者
研究者名 役職名 専門分野
岩間 厚志 教授(医学研究院)
研究の統括
幹細胞生物学
中核推進者(学内研究グループ構成員)
研究者名 役職名 専門分野
江藤 裕之 教授(医学研究院) 幹細胞生物学
松宮 護郎 教授(医学研究院) 心膜欠陥外科学
横手 幸太郎 教授(医学研究院) 内科学
三木 隆司 教授(医学研究院) 糖尿病学
中世古 知昭 特任教授(医学研究院) 血液内科学
田中 知明 教授(医学研究院) 内分泌学
腫瘍生物学
高山 直也 講師(医学研究院) 幹細胞生物学
降幡 知巳 助教(医学研究院) 薬物動態学
薬理学
毒性学

プレスリリース

2016年7月5日 高齢者の難治性がんである「原発性骨髄線維症」の発症メカニズムを解明 がん遺伝子を抑える薬としての有効性を確認

研究成果報告(2016年〜2018年)

本計画は,「再生システムと疾患の統合的研究拠点の形成」を目指すものである。幹細胞研究は再生医療のみならず,癌や加齢に伴う各種疾患などにも密接に関連し,生命科学全般へ重要な意義を有する。また,疾患iPS細胞を用いた研究は、新規治療法や治療薬の開発法として大きな注目を集めている。そこで、本グループ独自の幹細胞生物学や再生医学の研究アプローチを用いて,再生医療と疾患研究を推進し,世界レベルの中核拠点化を目指すべく研究を推進した。本研究期間において、各メンバーによる個別課題の研究と社会実装は確実に進展した。

研究班1:組織幹細胞と疾患研究:岩間は,造血幹細胞機能のエピジェネティック制御機構の解析を進め、その破綻が造血幹細胞の機能異常をもたらし、加齢関連骨髄球系腫瘍(骨髄異形成症候群や骨髄増殖性腫瘍)の発症を促進することを明らかにした (Blood 2016; J Exp Med 2016; Leukemia 2017; Blood 2017; Blood 2018)。また、新学術領域研究を通して、加齢造血幹細胞のエピゲノム特性を明らかにしつつある。高山は,海外機関との共同研究としてヒト造血幹細胞および白血病幹細胞のオープンクロマチン解析を行い、造血幹細胞と白血病幹細胞のクロマチン特性を明らかにした (Cancer Cell 2016; Nature 2018)。

研究班2:臓器再生と細胞療法研究:松宮は,脂肪組織由来多能性幹細胞から分化誘導した心筋細胞シートの臨床応用を目指して研究を進め、大動物(ブタ)の虚血性心筋症モデルで心機能改善効果が得られることを確認した。三木は,糖尿病治療への展開を目指してインスリン分泌膵細胞の解析を行い、その生存と増殖の制御機構を明らかにした (Metabolism 2018; J Endocrinol 2018)。中世古は,形質細胞腫瘍であるPOEMS症候群に対し,新規薬剤による寛解導入療法と自家末梢血幹細胞移植療法の有効性を実証した (Blood 2018, Biol Blood Marrow Transplant 2018)。また,POEMS症候群の形質細胞の全エクソン解析を行い,本症候群のモノクローナル形質細胞の分子学的特性を明らかにした (Leukemia 2019)。

研究班3:疾患iPS細胞と疾患研究:江藤は,iPS細胞から製造する人工血小板のヒトへの投与を計画している。既に兼任する京都大学で臨床研究を開始し千葉大学での実施も計画中である。また、iPS細胞由来の巨核球細胞株から血小板が産生される新たな分子機構を明らかにするとともに、産生の効率化に成功した(Cell 2018)。横手は,早老症症候群の病態解析を、AMED事業「早老症疾患特異的iPS細胞を用いた老化促進メカニズムの解明」において集中的に推進している。田中は,内分泌器官(下垂体細胞と副腎皮質細胞)のヒトES細胞からの効率的樹立システムの構築を行うとともに、大結節性両側副腎皮質過形成患者の疾患iPS細胞株を樹立し解析を進めている。降幡は,ヒト不死化脳ペリサイトを樹立するとともに(Mol Neurobiol、2018)、ヒト不死化アストロサイトの分化培養法を確立し(J Pharmacol Sci, 2018)、脳毛細血管内皮細胞と組み合わせ、二次元型・スフェロイド型血液脳関門モデルを構築し、企業との共同研究を進めている。

また、グループ内の共同研究も進み、H29年度には、横手・江藤・高山・岩間で共同して疾患iPS研究を強化し、上述の AMED事業(疾患特異的iPS細胞の利活用促進・難病研究加速プログラム)の研究拠点IIに採択された。この研究を通して疾患iPS細胞研究の基盤が形成され、疾患iPS細胞を用いた創薬研究に展開する準備を行っている。また、岩間・高山・中世古・横手は血液腫瘍患者のがん幹細胞の特性解析(AMED革新的がん医療実用化研究事業に採択)やゲノム・エピゲノム解析 (Leukemia 2019) を共同して実施し、成果が得られつつある。以上のように、臨床・基礎教室の連携による疾患研究が、幹細胞生物学や再生医学の研究アプローチを用いて飛躍的に進みつつあり、2つのAMED研究課題を共同研究として取得するなど、その成果も対外的に評価されつつある。メンバーが関わる臨床研究も6つあり、今後はより連携を強めることにより、千葉大学の特性としての疾患研究と治療学の推進に幹細胞生物学や再生医学の研究アプローチが生かされるものと考える。